はまゆう第73号春華秋実はまゆう

日本の昔話は、各地で代々、全く古くから語り伝えられてきた説話ですが、聴いたり読んだりして面白いものが多く、少なからず数々の物語から私たちは育まれてきました。行く年来る年にあたり、時に私達が忘れがちな日本人の原点に接するのもよいと思い ここに「笠地蔵」という民話を掲げてみました。
 ある村に心の善い夫婦が住んでいました。毎日揃ってふたりは編み笠をこしらえて町まで行き、売って生計をたてていました。明日は正月という日にも笠を売りに出ましたが、暮れのことでさっぱり売れません。しかたなく笠を背負ってとぼとぼと帰ってくると、ひどい吹雪のなかで野中の地蔵様が、濡れて寒そうに立っております。これは気の毒と思って六つの地蔵様に、残っていた六つの笠を着せてあげ、家に戻り、なにもすることがないのでそのまま寝てしまいました。
 そうすると、年越しの夜の明け方に遠くのほうから、橇を引く音がして、歌の声が聞こえてきました。
   六つの地蔵さ
   笠とってかぶせた
   夫婦の家さはどこだ
   夫婦の家さはどこだ
 こういって、橇の音が段々と近くなってきたので、夫婦は起き出して「ここです、ここです」というと、戸の口へどさっと、宝物の袋を投げ込んで置いて、帰って行く六人の地蔵様の後ろ姿が見えたそうです。
「日本の昔話」柳田 国男著より